パネルディスカッション

(レポート)第2回東京TSネットセミナー「ちょっと待って!イマドキの入口支援」

3月5日(日)、第2回東京TSネットセミナー「ちょっと待って!イマドキの入口支援」を開催しました。

社会福祉士、弁護士、研究者、行政機関、当事者の親など、様々な職種の40名を超える方にご参加いただき、盛況のうちに終了いたしました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

当日の概要(エッセンス)をご紹介いたします。(文責:浦崎)

問題提起(東京TSネット代表・浦崎寛泰)

浦崎より、現在様々な形で「入口支援」の状況についてご報告しました。

検察庁が行っている取り組みについては、「福祉を受けることを不起訴の条件とするおそれ」や「福祉を押しつけられる不信感を生むおそれ」などが指摘されていること、各地の弁護士会でも様々な福祉機関と連携して入口支援に取り組み始めているものの、まだまだ日も浅く、一部地域に限られているなど、試行が始まったばかりであることなどをご紹介しました。

東京TSネットの「更生支援コーディネート」は、活動を初めて4年近く経過しました。平成28年度は40件以上の新規依頼があるなど(昨年度の約2倍)、依頼も急増しています。

ただ、弁護人とソーシャルワーカーでは、それぞれの支援観のギャップもあるなど、実践をするなかで様々な課題も見えてきました。これまでは「被疑者・被告人を福祉につなぐ」ことの意義ばかり議論されてきましたが、いったん立ち止まり、お2人の先生のお話から、あらためて更生支援の問題点や危険性についても考えてみたいと思います。

浦崎寛泰(代表理事)

浦崎寛泰(代表理事)

基調講演①「刑事手続と福祉的支援~本人の主体性は確保できるか~」(一橋大学大学院教授 葛野尋之先生)

福祉的支援を必要とする被疑者を刑事司法から早期に離脱させることは必要かつ重要なことではあるものの、他方で、検察官の裁量による起訴猶予と福祉的支援とを結びつけることは、刑事司法のあり方にとって有害な結果をもたらす危険があること、また、刑事司法との結合のなかで、福祉的支援は再犯防止措置として性格づけられ、それを受ける人の主体性を確保することは困難ではないかと指摘されました。

葛野先生は、「本人の主体性を基礎にした全人格的支援」という福祉の本質も強く圧迫されてしまうのではないか、現行の制度の枠組みで入口支援を行うことは、どうしても免れ得ない限界があるということを強調されました。

そのような入口支援の限界を認識することが重要であること、もちろん、そのなかでも何とか支援しなければならない実務上の要請があることは承知しつつも、そうであるならば、可能な限り、本人の意思決定の任意性を実質化すること、検察官による起訴・不起訴の決定過程を透明化すること、特に弁護人の援助の強化が重要であることなど、特に実務家に向けて重い課題を提示されました。

葛野尋之先生

葛野尋之先生

基調講演②「刑事司法とかかわる対人援助~その可能性と課題~」(山口県立大学准教授 水藤昌彦先生)

水藤先生からは、近年の刑事司法と社会福祉の関係や、入口支援としての福祉的支援の現状について解説いただいた上で、①福祉制度の利用が強制される危険性、②支援という名のもとで長期にわたる継続的監視(=福祉の司法化)となりうる危険性、③福祉的支援の方法が未確立であることの問題点など、分かりやすく解説いただきました。

特に、「犯罪をした障害者・高齢者」という、従来の犯罪者に対するラベリング以上に強固なラベリングをしてしまう危険があるのではないか、そうならないようにするためには、「多様で複雑化した生活上のニーズをもつ人」という理解を共有していくことが必要ではないかと問題提起されました。

葛野尋之先生

葛野尋之先生

事例報告(東京TSネット理事・中田雅久)

中田弁護士より、実際の事例で、弁護人・心理・教育の専門家が連携して被告人に対する更生支援に取り組んだ事例(いわゆる「成功事例」ではなく、本人の意思の尊重に苦労した事例)が紹介されました。

身体拘束された刑事施設の特殊性などから、単に支援のスキルの問題だけに解消できない問題があるのではないか、裁判官や検察官が求める要求に応えようとすれば本人との意思との調整が問題になるのではないか(あえて迎合しない選択肢もありうるものの、それは量刑上一定のリスクがある)、「説明を尽くしてあとは自己責任」という「刑事弁護人にありがちな発想」は果たして本人の意思を本当に尊重したことになるのか、ある種の「ゆるやかなパターナリズム」もあり得るのではないかなど、お2人の基調講演を受けて、「そうはいっても・・・」と実務家としての悩みを率直にぶつける形で問題提起をしました。

中田雅久(理事)

中田雅久(理事)

シンポジウム「更生支援のあり方を改めて考える」
シンポジスト:葛野先生、水藤先生、堀江まゆみ先生
コーディネーター:及川博文(東京TSネット事務局長)

シンポジウムでは、中田弁護士の支援を担当した堀江まゆみ先生にも加わっていただき、会場からの質問にも答える形で、ディスカッションが行われました。

  • 福祉職のなかには「本人にはまずは刑務所にいって罪を償ってもらいたい」という意識を持つ人が多いが、そのことをどう考えればよいのか?(福祉職からの質問)
  • 被疑者段階は弁護人には情報がなく、検察庁の「再犯防止対策室」に頼らざるを得ない(弁護士からの意見)
  • 捜査弁護では、刑事手続から解放させるためにはある種の「強引さ」が必要ではないか(弁護士からの意見)
  • 私たちは再犯防止のためにやっているわけではない(某地検の社会福祉士)

など、会場からも活発な質問・意見が寄せられました。

最後に、「これから入口支援をどう進めていけばよいか」という問題について、各先生から以下のようなコメントをいただきました。

堀江先生

「本日のお話で、『よくない入口支援』が存在するということが見えてきました。では『よい入口支援』とは何か。それをアウトプットして議論していくことが大切ですね。」

葛野先生

「刑事弁護人のプラクティカルな視点からは『起訴されない方が良い』と。それはそのとおりだろうと思います。
しかし、結果として構造的な歪みが生じうるということを、この問題は提起していると思います。
みんなが納得するような手続を踏んだのかどうかなど、考え続ける必要があります。」

水藤先生

「今の社会福祉士の養成課程は、このようなことをきちんと教えられていません。
結局のところ、『クライアントは誰なのか』ということです。クライアントは弁護人でも検察官でもなく本人なはずです。
犯罪行為から本人が離脱することを支援するのであれば、『コントロールして犯罪をさせないようにする』ということではないはずです。」

パネルディスカッション

パネルディスカッション

感想(主催者を代表して)

今回のセミナーに参加された方は、おそらく「モヤモヤしたもの」が心に残ったと思います。おそらく、このモヤモヤは、刑事司法と福祉という、本質的に異なるものを結びつけようとする限り、解消されることはないと思います。

入口支援に関わろうとする私たちは、このモヤモヤから逃げてはいけないのだということを突きつけられました。「福祉と縁の無かった人が、入口支援をきっけかに福祉につながった。一件落着。」という単純なものではなく、実務上・政策上の要請があることは認めながらも、他方で、もしかしたらそれによって失ったり害されたりするものもあるのではないか、そのことを忘れてはならないのだと思います。

一般には、もっと実践的なセミナーの方が好まれるようですが、今回は、あえて、原理原則を振り返るテーマでセミナーを企画いたしました。それが、入口支援を推進する私たち東京TSネットの責任であると考えたからです。

参加された皆様の心に、少しでも「モヤモヤ」を残せたのであれば幸いです。