出前講座でこんなことをやってきました ―テーマ:障害者虐待

150322

障害者虐待

  1. ○年○月、障害(発達・知的・身体)を持っている方を対象に日常生活上の支援などを行っている社会福祉法人で出前講座を行いました。
    講座で扱ったテーマは虐待でした。
  2. 講義では、先ず、何が虐待なのか・虐待を発見するためのポイント・市町村への通報までの流れについての一般的なお話しをさせて頂きました。
  3. 次に、事前に受講者の方から出して頂いたアンケートに回答しました。アンケートでは、

    ① 利用者さんから噛みつかれたり引っかかれたりして怪我をしそうになった時どこまで抵抗することが許されるのでしょうか?

    ② 利用者本人の意思にはそぐわないが、身に付くことでQOLの向上が予想されることをやってもらうのは虐待にあたるのでしょうか?

    ③ 安全確保のため、車いすのずり落ち防止のためのひもを利用することは拘束になり得るのでしょうか?

    ④ 「こだわり」の制限はどこまで許されるのでしょうか?

    といった質問が出されました。

    いずれも難しい問題でしたが、

    ア 福祉の専門職としては障害をもった方の問題行動の発生そのものを抑止することが大切であること(例えば、暴力を振るう原因を取り除き、職員さんが抵抗しなければならない局面そのものを減らすこと)、

    イ 社会技能の習得や身体拘束用の器具等を使うにあたっては障害を持ってもらう方の納得を得ることが重要であること、

    ウ 重度の障害があるからといってご本人から理解を得ることを諦めないことが意識されなければならないことなどを基本的な視点として、私なりの考えをお話しさせて頂きました。

  4. その後、架空の事例をもとに、グループディスカッション形式で、虐待かどうか・虐待だと思ったらどうすれば良いかを考える練習をしました。
    使った事例は以下のようなものです。

    (事例)

    春男さんは軽度知的障害を伴う発達障害者です。年齢は21歳です。通所施設である桜丘福祉園に通っています。

    夏子さんは春男さんの母親です。

    春夫さんと夏子さんは2人暮らしです。生活にはあまり余裕がありません。

    師子角職員は桜丘福祉園の職員で春男さんの支援を担当しています。

    ある日、夏子さんの家にクレジットカード会社から春夫さん宛ての請求書が届きました。請求書には10万円以上の金額が書かれていました。利用明細には携帯の課金ゲームアプリを開発・販売している会社が書かれていました。

    夏子さんから電話で相談された師子角職員は、夏子さんの了解を得た上で春夫さんから携帯電話を預かることにしました。師子角職員は電話を置くとすぐに談話室にいた春夫さんのもとに向かい、「携帯を出しなさい!」と怒鳴りました。その後、しぶしぶ携帯を差し出した春夫さんから携帯電話を預かりました。

    師子角職員のしたことが、

    ① 虐待にあたるかどうか

    ② 虐待にあたる場合、師子角職員にどのように注意するか

    を考えてみてください。

     (議論の経過)

    虐待にあたるかどうかでは、夏子さん・春夫さんへの支援が必要であることは前提にしつつも、

    ア 師子角職員が携帯を取り上げるしかないと一人で判断してしまっているのは問題ではないか(もっと良い支援の在り方がないかどうか複数の職員で議論することが必要ではないか)、

    イ 怒鳴る必要はなかったのではないか、

    といった観点から虐待ではないかという議論が優勢でした。

    師子角職員にどのように注意をするかを考える場面では、職員役を務める私を相手に何人かの受講者の方に実演をしてもらいました。

    怒鳴る必要があったかどうかでは言い合いになる場面もありましたが、何人目かの方は一人で判断しているという動かしがたい事実を上手く指摘して私自身なるほどと思えるような的確な注意をしていました。

  5. 虐待ではないか・虐待を見つけたらどうすれば良いかは特定の正解がある問題ではありません。複数の目で、もっと利用者さんの負担の少ない方法がないのかを施設として考え続けることが虐待を防ぐ上では重要な意味を持ちます。事例をもとに実際に議論してもらうことで、複数の目で議論することの重要性を伝えることができればというのがこの講座の狙いでした。この法人ではもともとケースをみんなで議論して考える素地を持っていましたが、そうした体制を今後も大切にし、良い方向に発展させて行ってもらえると嬉しく思うと伝え、講義を締めました。

(弁護士 師子角允彬)