出前講座日記:テーマ 地域啓発

150317

東京都内のとある社会福祉法人から、職員向けの研修として出前講座のご依頼がありました。出前講座の依頼を受けると私たちはいつも、まず参加者の方々に事前アンケートをお願いして、日頃「これってどうなの?」と思っておられる疑問を寄せていただいています。職員さんの考え方やご関心を知ることができるので、事前アンケートは、いつも興味深く・面白く読ませていただいています。

アンケート結果からいくつかのご質問を取り上げて、◯月×日、出前講座を行いました。

その日、私たちが取り上げたご質問は、次のようなものでした。

※実際の事例を元にしていますが、プライバシーのため相当程度創作を加えています。

 Eさんは、仕事を終えた後、いつも決まった発車時刻のバスに乗ります。

  1.  仕事の終了が遅れていつものバスに乗れそうにないとき、Eさんは、落ち着かなくなって大声を上げたり、バス停に向かって全力疾走したりするので、他の人にぶつかったり、信号無視をして事故に遭わないかとハラハラしてしまいます。どう対応すればよいのでしょうか。
  2. Eさんは、バスの中で大声を出してしまい、運転手にバスを降ろされ、「これからはバスを利用しないでください」といわれてしまいました。Eさんが迷惑をかけてしまった以上、このような対応をされてもやむをえないのでしょうか。

 

こんな意見が出ました。

弁護士:職場の方に説明して、Eさんだけは、きっちり定時で帰れるようにしていただけないでしょうか?

参加者:Eさん自身の事故も心配ですが、Eさんが子どもを蹴飛ばしてケガをさせたり、バスを壊したりしないか、と思うと怖いです。

参加者:もしそんなことになってEさんが逮捕されたらどうなりますか。帰ってきたら、これまで通りに生活できるのですか。

弁護士:法律家は、再犯をしない方向に働きかけてきます。もし裁判になって、障害に理解がない弁護士がついた場合、一人ではバスに乗らないようにするとか、この路線のバスには乗らない等の約束をさせるかもしれませんね。

参加者:でも、バスに乗らないとEさんは仕事場に行けません。

参加者:顔見知りの運転手さんだったら、そんなことにはならなかったと思うのですが。

参加者:Eさんなりの理由があって大声を出しているのに、それを説明してもなかなか理解してもらえませんよね。

参加者:いつも大声を出すような人だと誤解されたのかもしれません。バス会社に、Eさんのことを前もって説明しておけばよかった。

弁護士:「警察プロジェクト」といって、地域の警察に障害者のことを説明してまわる、という取り組みもあります。

■ 「Eさんの行動特性を理解してもらうために、日常の活動として、だれにどのような働きかけをすればよいか」について、ディスカッションをしました。

 

■ 私たちがお伝えしたこと

  • 障害のある方にとって、地域で暮らすことは、憲法13条、14条、22条、25条、障害者権利条約19条、28条等に定められた「権利」です。
    障害のある人が地域で暮らすには(いわゆる)健常者とは違う難しさがありますが、それを乗り越えるために、種々の福祉サービスが用意されているのです。
  • 通勤バスは、Eさんにとって、日常生活を送るうえで欠かせない要素です。公共交通機関が障害のゆえに乗車を拒むことは、Eさんが地域で暮らす権利を侵害する行為だといってよいでしょう。Eさんの立場にたつ支援者(又は弁護士)としては、このようなバス会社の対応に対しては、断固反対しなければなりません。
    普段からバス会社や近所の方々と接点をもち、Eさんの行動特性の周知をはかっておくことも、予防策として有効でしょう。
  • しかし、Eさんがバスの中で大声を出し、周囲に迷惑をかけていることも事実です。Eさんの行動を改善しようとせずに権利だけを主張しても、Eさん自身が周囲から疎んじられるだけでしょう。結果的に地域で生活しづらくなり、かえってEさんの地域生活の権利を害してしまう可能性もあります。
    ですから、Eさんが大声を出してしまう原因・環境を除いて、できるだけ周囲に調和した行動をとれるような支援もまた、求められているのだと思います。

 

(弁護士 髙橋春菜)

 

参考資料・情報など

  • 行動障害に対する応用行動分析
  • 支援介助法
    ・支援介助法協会ウェブサイト http://shienkaijoho.com/
  • 警察プロジェクト(K-Pro)
    ・NPO法人PandA-J「知的障害・発達障害のある人を理解するために」(2012)
    ・野沢和弘・大石剛一郎・堀江まゆみ「シカゴの夜から六本木の朝まで-対抗軸を打ち出せるのは知的障害」第4章(2006)
    http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n249/n249_06.html