虐待防止法、セルフネグレクトについて、精神障がい者福祉施設で出前講座!

1-無題

●月×日、精神障害者福祉施設を運営する社会福祉法人で、職員研修の講師として、障がい者の虐待防止についてお話しする機会をいただきました。

1 障害者虐待防止法ができるまでの背景を確認しよう

まずは、私の方から、障害者虐待防止法ができるまでの背景について説明をしました。障害者虐待防止法ができたのは、児童虐待防止法や高齢者虐待防止法より遅く、2011年。1990年代、大きな障がい者虐待事件がマスコミに取り上げられたことが大きな力になりました。それまで、障がい者、保護者が声を上げにくい状況に置かれていたことを理解することは、虐待に気付くことや、再発防止策を考えることにとっても必要です。この辺りは、長年、障害者の権利擁護の先頭に立ってきたジャーナリストの先輩から、私たち東京TSの弁護士に伝えられた大切な魂です。

2 禁止されている虐待について学ぶ

次いで、障害者福祉施設従事者等による虐待の5類型を、法律の条文、具体例を抑えながら確認していきます。
また、事前に弁護士に聞いてみたいことを聞き取ったアンケートから、こういう事例は虐待にあたるのだろうか?ということを一緒に考えました。
例えば、利用者さんを呼ぶとき、氏名で呼ぶのではなくて、「ちゃん」付けで呼んだり、ニックネームを付けて呼ぶことは許されないのか?といった問題です。
障がい者に対して、不当に差別的な言動をすることは、心理的虐待に該当します。通常、対等な関係にある成人に対しては、姓+「さん」付けで呼ぶことが多いことからすると、若い職員さんが自分よりうんと年上の利用者さんを「ちゃん」付けで呼んだりすれば、それは、相手が障がい者であることを理由に下に見ている、心理的虐待にあたると評価されるかもしれません。
しかし、単に、表現の問題ではありません。長い間の付き合いで、「ちゃん」付けで呼ぶことがむしろ自然な幼いころからその利用者さんを見てきたベテランの職員が、親しみを込めて呼ぶことが、直ちに心理的虐待に当たるわけではないでしょう。関係性の中で、相手を馬鹿にすることが禁止されているのだ、もっとも、障がい者本人は、必ずしも、嫌だということを言葉で表現できるわけではない、言葉で抗議しなくたって実は傷ついている場合もあるから注意しようということを、参加者で共有しました。

3 難しいセルフネグレクトの問題

また、この日は、掃除ができずごみ屋敷のようになっている、周囲からもクレームが出ているような場合、どんなタイミングで介入していくか、どう関わっていくか?というテーマについても一緒に考えました。
弁護士の立場からは、賃貸住宅において、用法遵守義務違反で賃貸借契約を解除されたり、原状回復のための損害賠償請求をされるリスクについて解説した他、視点として、本人のためという点を外してはいけないこと、この事例で言えば、近隣への迷惑行為を防止し、周囲の生活の平穏を維持するという観点で考えるのではなく、人間関係の悪化がストレスになって本人に悪影響が出ないか、地域での生活がしにくくならないかなど、本人視点で考えましょうという話をさせてもらいました。
結局、無理にごみを片付けても、すぐにまたゴミが溜まるであろうし、短期的な解決には至らないとしても、本人が清潔で安全な生活をするためにどう支援すればよいか、見守りのネットワークを作り、信頼関係を粘り強く作っていくことの重要性を確認しました。また、コミュニティソーシャルワーカーの働きなどをご紹介しました。

4 本人の意思の尊重についてグループディスカッション

また、本人の意思や行動で、望ましくない状態で生じている場合として、糖尿病の利用者さんが食事制限を守れない、揚げ物ばかり買って食べようとする、金銭管理を代わりにした方がいいのか?という題材で、グループディスカッションをしました。
これも、難しい問題ですが、たとえ他の人から理解しにくい、場合によっては愚かな行為だと映っても、個人の領域に関する限り、本人には、邪魔されない自由があります。お金の使い方がちょっと偏っているという程度で、金銭管理をしたり、本人に行動の変容を促すのはスジ違いかもしれません。もちろん、それにより本人の健康が大きく害されることをそのままにすることは好ましくないでしょう。そうだとしても、健康面でのリスクについては、介護職が主観的に判断するのではなく、医師等の専門家に意見を聞き、丁寧なアセスメントを行うことが重要だと思われます。やむを得ない介入に当たっては、どうすれば本人に健康で楽しい食生活を送ってもらえるかという観点から、本人の意思を尊重しつつ進めることを確認しました。

(弁護士 中田雅久)

※実際に行った出前講座をモデルにしていますが、個人情報保護等のため、趣旨に変更がない限度で、加工しています。