福祉事業所(就労継続支援、グループホーム等)の職員向け(約20名)に、「意思決定支援」をテーマにした出前講座を実施しました。

150227

○設例

グループホームで生活をしている20代の女性(Aさん)が、キャバラクで働き始めた。以前は作業所(就労継続支援A型)で清掃の仕事をしていたが、やめてしまった。作業所で働いていたときは、ホームが通帳を全部管理していて、貯金もできていた。しかし、キャバクラで働き始めて、バイト料が現金で日払いになり、もらったお金をその日のうちに浪費してしまうようになった。貯金もなくなり、ホームの利用料を滞納し、消費者金融から借金を重ねた。ホームの職員は、昼間の仕事をするようにAさんを説得しているが、全く聞く耳を持たない。どうしたらよいか。

○グループディスカッション

グループごとに、参加者から様々な意見が飛び交いました。
「利用料の滞納が続くと施設にとってはきつい。いつまでも施設の負担というわけにはいかないが、かといって、追い出すわけにもいかない。追い出すのは虐待なんだろうか。」
「自由にさせすぎたのではないか。通帳をきちんと管理するべきではないか。」
「いや、それだとまた嫌になって反発するのではないか。」
「作業所をやめたときのタイミングで、もっと厚く支援をすべきだった。情けない。」
「消費者金融の借金については専門家に依頼しないと、自分たちでは手に負えない。」
「昼間の仕事をきちんとできるように就労支援を強化しよう。」
「いや、キャバラクらに通うのが何が悪いのか。職業選択の自由がある。その点をどう答えていいのか分からない。」
などなど

○何が問題なのか

講師(弁護士)は、まず、「何が問題になっているのか」を整理しました。その際、出発点として、Aさんには、ホーム利用者(賃借人)としての権利、金銭管理の自由、職業選択の自由があることを確認しました。他方で、Aさんの自由に任せていては、Aさん自身の経済的破綻、搾取被害の危険があることも確認しました。
そのような「権利(自由)」と「危険」の狭間で、Aさんの支援はどうやっておこなっていけばよいのでしょう。

○意思決定支援11原則

ここで、PandA-Jの大門・明石塾が提唱する「意思決定支援11原則」をご紹介しました。
*「大門・明石塾」についてはこちらを参照
http://ameblo.jp/panda-daimon-akashi/

**意思決定支援11原則**

  1. 意思決定に必要な情報を,本人が理解しやすい形や方法で提示しているか?
  2. 選択肢がある場合,その選択肢ごとにきちんとその選択肢の情報を伝えているか?
  3. 本人と支援者との間には,信頼感と安心感が構築されているか?
  4. 本人がモチベーションがあることを確認しているか?
  5. 本人が意思決定をするために,十分な時間を与えているか?
  6. 本人の意思の表出を五感の全てを使って受け取ろうとしているか?
  7. その支援は本人の一番理解しやすい時期・環境下で行われたか?
  8. 失敗を許す支援になっているか?
  9. やり直しができることを本人にも伝え,それを前提として支援しているか?
  10. 本人の意思実現に対し,協力的支援になっているか?
  11. 失敗したときに,支援者としてどうしたらよいか考えた上で支援をしているか?

○弁護士は何ができるのか

講師は、このケースで弁護士に何ができるのかを問いかけました。
このケースで借金を法的に解決(自己破産等)しても根本的解決にならないでしょう。

A)本人の権利を確認すること

11原則の根底にあるのは,本人の権利(自己決定権)を護るという視点です。
「自由なところに住む権利」を奪われてきた人に「利用料を払わないと住めなくなるよ」といっても支援者の声は響きません。「安全に暮らす権利」を奪われてきた人に「人を傷つけてはいけない」と言っても響きません。
弁護士は,「クライアントの権利を護るプロ」です。本人の権利を護る視点から働きかけることができます。

B)(法的観点から)適切な選択肢・情報を提供すること

このケースでは、利用契約上の権利関係、債務整理の選択肢などを提供することができるでしょう。

C)第三者としての視点を提示すること(「気づき」の促し)

第三者だから言えること,気づくこともあるのではないでしょうか。
Aさんには、「このままじゃまずいかも」と思える情報や視点を提示できるかも知れません。
事業者に対しては、今までのAさんへの支援を振り返るきっかけになるかもしれません。

講師は、このケースのモデルとなった実際の事例では、ご本人に対して、「好きなところで働く権利がある」「好きなところで住む権利がある」「自分の財産だから自由に使う権利がある」ということをまず伝えたことを紹介しました。その上で、利用料を払わないと,せっかくの大事な権利が失われてしまうこと,今のままの生活だと借金だけが増え続けてしまうことなどを伝えました。

弁護士がこれらを第三者の立場から説明したことで、Aさんとしても、利用料を滞納したままではマズイという意識がでたようです。その後は、バイト代の一部をホームに少しずつ入れるようになったそうです。

○最後に

最後に、講師は、「弁護士も社会資源の1つ」として活用してほしいと強調しました。とはいえ、弁護士がどこまで関与できるか(弁護士は何ができるのか)はまだ試行錯誤です。司法と福祉の接点の模索は始まったばかりです。

(弁護士 浦﨑寛泰)