事例2-16 自分は大人の発達障害?このまま働けるのでしょうか?

 Aさんは大学を卒業した後、ある民間企業の事務職として働いています。入社2年目を迎えたこの春、同期の社員はみんな昇給がありましたが、Aさんだけ昇給がありませんでした。
昇給がないことは不本意ですが、確かに書類の提出期限が守れなかったり、ちょっとしたミスが多いとAさん自身も気になっています。そのせいか最近仕事が回って来なくなり、職場に居づらいことから、Aさんは会社を休みがちになってしまいました。
Aさんがインターネットで調べてみると、「大人の発達障害」に当てはまることが多いことに気がつきました。現在上司からは産業医面談を勧められていますが、Aさんは自分にそのような「障害がある」と確定することで、減給されたり、このまま働くことができなくなってしまうのではないかと心配です。どうすればよいのでしょうか?

【事例の意図】

近年「大人の発達障害」が注目されるようになってきて、長年理由のわからない生きづらさを抱えてきた人がこれらの情報にたどり着くことも増えてきました。生きづらさの原因が判ることですっきりすることもありますが、「障害」だと判ることで新たな困難を抱える可能性もあります。「障害」の可能性に気づいたとき、本人や周囲の人達はどのような行動をとるべきなのか、どの企業でも起こりうるシチュエーションとして想定しておく必要があります。

【弁護士の視点から】

事業主(会社)が、労働者が障害を有していることを理由に、減給処分にしたり、解雇処分としたりすることは許されていません。
平成26年、日本は障害者権利条約を批准しました。障害者権利条約では、雇用に係る全ての事項について、障害を理由に差別することを禁止しています(27条)。また、平成25年には、障害者の雇用の促進に関する法律が改正されました。平成28年に施行予定ですが、そこでは、企業の義務として障害を持つ労働者の、その障害の特性に配慮して、職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない旨を定めています(36条の2、同条の3、同条の4)。
このままAさんが医師と面談することなく会社で働き続けるとすれば、Aさんは事情を理解してもらえないまま、仕事を続けなければなりません。一度医師と面談することをお勧めします。産業医は、会社に対して、面談した従業員の健康管理等について必要な勧告をすることとなっていますので、産業医がAさんを発達障害の可能性あり、と判断した場合は、その旨及びAさんの労働環境が改善されるよう、Aさんの処遇に関する意見を伝えてくれるかもしれません。もっとも、産業医が必ずしも発達障害について詳しいとは限りません。病院を受診する場合は、産業医ではなく、一度専門医のいる病院を受診し、受診した医師からの診断書や意見書等を会社へ提出することも検討して良いでしょう。
(弁護士 橋本佳子)

【福祉の視点から】

今回は休みがちになっている様子や、上司から産業医の面談も勧められているため、一度病院には通院し、診断は受けたほうがいいかもしれません。そこで、発達障害なのかそうではないのかにより、対処法も変わってきますし、会社に対してどう配慮を求めるのかも変わってきます。
そのうえで、ご本人から話を伺い、どういう働き方をしていきたいか整理をする必要があります。障害があると診断された場合には、そのことを周囲に知らせないままで、現実的に働き続けるイメージを持てるのかどうかを確認してみましょう。
もし、続けられるイメージがないのであれば、退社し、就労関連施設で訓練や支援を受け、就労のイメージを再構築してみてもいいのかもしれません。
また、働き続けるにしても、一度休職し、リワーク支援を行っているデイケアや障害者職業センターに通所し、対策を考えてもいいかもしれません。
ご本人は収入の問題等で焦るかもしれませんが、一つ一つおかれる状況に対して情報整理を行い、本人も納得した上で、行動していくことが大切です。
(就労支援事業担当者)

【心理の視点から】

突然「障害がある」となれば、これまでの働き方や生活が一変してしまうのではと心配されることと思います。最近では発達障害についてたくさんの情報が得られるようになってきましたが、それがかえってAさんの不安や混乱を招いているのかもしれません。
Aさんはインターネット上の発達障害チェックリストを利用したようですが、これに当てはまるからといって、すぐに医学的な診断がつくわけではありません。現在の状況に加えて、子どもの頃の様子や既往歴などを聞き取り、身体検査や心理検査を受けた上で、ほかの病気との鑑別が行われます。また、診察や検査は単に障害の判定を行うものではなく、ご本人の特性や、得意・不得意を知るためのものでもあります。適切な診断が下れば、それに沿って生活の見直しや、職場環境を調整することができますから、一度専門機関を受診することはAさんの役に立つかもしれません。
また、Aさんは現在会社を休みがちになっているとのことですが、食欲や睡眠の変化、気分の落ち込みはありませんか? 発達障害などの障害をもつ方は、その生活の困難さから、うつ病や不安障害などの二次的症状を併発することも多いと言われています。反対に、うつ病の症状を発達障害だと取り違える場合もあります。もし体調が優れないようであれば、早急に医療機関を受診し、休息を取る必要があります。
(産業カウンセラー)

参考リンク