事例2-10 昼休みの外出や自動販売機の利用を制限することはできるのでしょうか。

知的障害のあるAさんは、一般就労(障害者枠)で会社(一般企業)に勤めています。その会社は、オフィス街にあるため、昼食時は周辺が大変混雑します。そのせいか、Aさんは午後の始業に遅れて戻ってくることがあり問題になったため、昼食は仕出し弁当を会社の休憩室で食べ、外出はしないように言われてしまいました。また、Aさんは、会社の健康診断でメタボと診断され、社内の自動販売機の利用が禁止されています。就労支援の観点からは、いずれも行き過ぎた制限だと思うのですが、会社側とはどのように話を進めるべきでしょうか?

【事例の意図】

会社としては、雇用の場のルールとして、Aさんに午後の始業時刻には戻っていてもらわなければ困るし、労働者の健康にも配慮する必要があると考えています。しかし、そのために、昼休みの使い方についてどこまで制限ができるのでしょうか。また、支援者としては、会社に対してどのような働きかけをするのが望ましいのでしょうか。

【支援者の視点から1】

外出禁止について

外出を一律に禁止することは不適切と考えられます。まず遅れる原因を確認し、その原因次第で対応を検討する必要があります。
ご本人が、外食をしたいという気持ちがないのであれば、お弁当がいいのかどうかうかがい、希望に沿った対応を考えます。もし外食をしたいという希望があるのであれば、所定の時間内に戻ってくる方法を支援者が検討します。例えば、以下のような方法が考えられます。
・一緒にまずはやってみて状況の検証をする
・時間内に戻る対応策を試してみる(アラーム等を活用する、なるべく時間のかからない店選びをする)
・遅れる時には電話で報告することをルールとする
企業側には、本人に外食希望があれば、本人の息抜きも重要であることを伝えるのもよいでしょう。

自動販売機の利用が禁止されていることについて

Aさんだけ自動販売機の利用を制限することは差別にあたる可能性があります。
医療機関と連携を図り、生活習慣や食生活の見直しを検討します。
自動販売機の使用についても、ただ単に禁止ということではなく、飲む種類の検討やその分の運動が出来るか等本人と話し合ったうえで対応を考える必要があります。
基本的に本人がどうしたいのかという意向について、できること、できないことの精査を本人と支援者、第三者(家族、医療機関等)と話し合い、本人も納得の上で強制しない対応を企業側にお伝えする必要があります。

(就労移行支援事業所 職員)

【支援者の視点から2】

職場での様々なルールや消費サービスは障害のない社員を想定し設計されています。そのため、障害のある人が職場で働く場合に配慮が必要になることがあります。
職場は、従業員が働きやすい職場環境を整える必要がありますが、この場合、禁止や制限は課題の解決を障害に求めることであり、対応としては好ましくありません。また、人権や労働者の権利に関して問題があるように思います。
このケースでは、何が問題なのかをアセスメントし、職場で話し合い、働きやすいための改善や新たなルールを作る方向での解決が望まれます。
また、支援者が職場でこのような禁止や制限の場面を見かけた場合は、職場に対して適切なアドバイスを行い、職場の雇用管理の課題解決をサポートする必要があります。一つひとつの課題の解決は、職場での障害の理解が深まるだけでなく、企業の雇用管理のノウハウの蓄積にもなります。
具体的な解決方法として、先ず一緒に食事に行ってみて遅れる原因を調べます。ちょっとしたコツや工夫、トレーニングで解決する場合もあるかもしれません。場合によっては食事時間の変更など柔軟なルールで対応することも有効です。
自動販売機については、健康について分かり易く伝え、本人が気づき主体的に行動を変えることができるような対応が望まれます。栄養や健康の知識を学ぶことは自分自身のことを大切にすることでもあります。学ぶことはなるべく楽しく行うこと、好ましい行動を賞賛し習慣化するなどがコツです。
カロリーの低いものとそうでないものの見分けがつくようにするなどの工夫もあるかもしれません。職場の知恵や支援者の力量の見せ所です。

(就労支援センター 職員)

【弁護士の視点から】

使用者は、労働者に対して、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える義務があり、使用者は、労働者に休憩時間を自由に利用させなければならないとされています(労働基準法第34条1項、3項)。労働者は休憩時間を自由に利用することができますので、昼休みに、外出を禁止することはできないというのが原則です。
もっとも、そのような自由も、建物・施設の管理上の規制に服することや職場規律の維持にとって合理的で必要な制限を受けることはあり、行政解釈では、外出を許可制とすることも、合理的な理由があり、事業場内で自由に休息できるのであれば、必ずしも違法ではないとされています。
Aさんの場合、「仕出し弁当を会社の休憩室で食べるように言われ」たということですので、休憩室が用意されているとはいうものの、職場からの距離に関係なく一律に外出を制限するものであり、許可制ですらないので、違法とされる可能性が高いと言えます。
さらに、本件での外出禁止は、障害があるAさんだけを対象としたものです。この点、平成25年に改正された障害者雇用促進法では、障害者差別の禁止と、合理的配慮の提供義務が盛り込まれました。
Aさんが、時間内に職場に戻れない原因を調べたうえで、昼食のピーク時ではどうしても時間内に戻れないというのであれば、Aさんについて、休憩時間を少しずらしてもらうよう合理的配慮を提供するよう求めてみるのもよいでしょう。
自動販売機の使用禁止についても、一見、Aさんの健康に配慮した措置のようにもみえますが、その方法として、障害があるAさんにだけ、自動販売機の使用を一律に禁止することは、明らかに行き過ぎであり、法が禁止する障害者差別にあたる可能性が強いと考えられます。
本人の健康のためにダイエットが必要だということであれば、会社が押し付けた規制ではなく、Aさんの意思を十分聴いたうえで、自主的なルールとして、食べ過ぎに気を付ける、運動を取り入れる、炭酸飲料等ではなく、ミネラルウォーターやお茶を飲むように心がけるよう、Aさんと十分話し合うことが必要ではないでしょうか。

(弁護士 中田雅久)