事例2-3 部屋の片づけをしないAさんについて、大家さんから苦情が出ているのですが、ケースワーカーとしてどのような支援につなげることができるでしょうか。

Aさんは生活保護を受けながら、アパートで1人暮らしをしています。最近、Aさんの住むアパートの大家さんが、他の住人からAさんの苦情を頻繁に受けるようになりました。苦情の内容は「お風呂にきちんと入っていないようで、不潔な格好でうろうろしていて怖いので退去してほしい」とか「片付けをしていないようでゴミが溜まっているのか、部屋から悪臭がする」といったものです。
大家さんは困って、Aさんの担当のケースワーカーに相談を持ちかけてきました。ケースワーカーとしては、Aさんが何らかの障害などを持っているのではないかと考えているのですが、通院や健康相談を勧めてもAさんが頑なに拒否をするので、そのような困った状況になってしまう原因はよくわからないままです。
Aさんにはどのような支援が必要なのでしょうか。また、ケースワーカーはどうすればAさんを必要な支援につなげることができるのでしょうか。

【事例の意図】

短期間入浴や片づけをしないことは、誰にでもありうることです。しかし、本事例のAさんについては、近隣住人から「怖い」「悪臭がする」といった苦情が出るほどになっています。ケースワーカーは、Aさんの振る舞いの背景に何らかの医療的な課題や障害などがある可能性を感じていますが、Aさんは通院や健康相談を拒否しています。
このような場面で、Aさんへのアセスメントをいかに行い、入浴や片付けとうまく折り合えるよういかに支援するか、また、近隣とのトラブルに発展することをいかに防ぐかを検討します。

【行政の視点から】

ただ「怖い」「悪臭がする」というだけで、保健医療や福祉支援につなげるのは難しく、人権上の問題もあります。具体的に「一人で何か会話している」「毎晩奇声をあげ、その内容が異様なので、怖い」「『しばしば足を踏み鳴らすので、階下の住民の睡眠が妨げられる』と訴える住民が増えた」等の、独特な行動を提示されると、支援者も介入する理由ができると思います。精神疾患が疑われるようであれば、保健所・保健センター(自治体によって名称が異なります)等の保健師や、精神保健福祉士の訪問支援等につなげる選択肢ができます。訪問の結果によっては、保健所の精神保健相談の医師や、精神保健福祉センターの医師の訪問等につなげる選択肢もあるでしょう。また、生活保護の部署には「健康管理支援員」という、福祉支援の非常勤を雇用している自治体も増えてきたので、生活保護の地区担当者に同行訪問してもらう選択肢も出てくると思います。

(精神保健福祉センター 職員)

【支援者の視点から】

本人が抱える問題について追及する前に、信頼関係をつくることが重要です。しかし、ケースワーカーだけが密に関わるのではなく、地域包括支援センター、民生委員、保健所、アパートの管理会社など様々な機関と連携しながら支援することで、見守りや支援の層を厚くすることができます。
ケースワーカーが訪問する際に、保健所の保健師に同行訪問を依頼し、本人自身の困りごとを聞くことで、受診に繋げる可能性を探ることはできると思います。また、精神疾患だけでなく、健康状態の確認を行い、まずは健康診断に行くよう促すなどして精神科受診につなげられるとよいと思います。
自治体によっては、居宅清掃事業を行うことができます。一人につき一回までの利用ですが、手がつけられないごみ屋敷のような場合は業者による処分で、きれいにすることができます。

(地域活動支援センター 職員)

【弁護士の視点から】

身だしなみを清潔に整えることや、掃除・ゴミ捨てをきちんと行えるように支援することが必要だと思われます。
お風呂に入らずにうろうろしているからといって直ちに家主からアパートの賃貸借契約を解除されることはないと思います。ただ、居室がゴミ屋敷のようになっていると、用法遵守義務違反(民法616条、同594条1項)を理由に賃貸借契約を解除される可能性があります。そうなるとAさんは建物からの退去や清掃費用の支払を求められることになります。同じアパートの住民から苦情が出ているとすれば、家主が法的な手続をとってくることは十分に考えられます。
清潔で人間らしい生活を送ることの大切さは言うまでもありませんが、生活の場を確保したり、余計な負債を背負い込まないようにしたりするためにも、衛生管理をきちんと行う力を身につけてもらうことが必要だと思います。

(弁護士 師子角允彬)