事例1-7 移動支援中の傷害事件とヘルパーの責任

移動支援・行動援護を使い、ヘルパーを伴って出かけるGさん。行動障害があるため片時も目が話せません。しかし、長時間の外出においてはちょっとした隙に事が起きてしまいます。ある日、ヘルパーと出かけた先で、突然走り出したGさんは、おばあさんに体当たりをして全治1ヶ月の圧迫骨折の怪我を負わせてしまいました。一瞬の出来事のためヘルパーは止めようもありませんでした。しかし、そういった事態にならないためにヘルパーがついているともいえます。ヘルパーや事業所には責任が生じるのでしょうか。

7

事例の意図

ヘルパーによる移動支援・行動支援の現場においては、この事例のように突発的な行動が日常的に起こっています。このような事態が生じた際の法的責任の有無と再発防止に必要なこととは何か考えることは、非常に重要です。

司法の視点から

移動支援のヘルパーは、利用者である G さん自身や他者に発生する危険を回避するよう注意を払う義務があります。ヘルパーが損害賠償責任を負うかどうかは、ヘルパーに民法709条の過失があるかどうか、すなわち、ヘルパーは G さんがこのような行動に及ぶことを予測できたのか、G さんの行動を止めることができたのかが問題となります。
また、事業所としても、アセスメントやプランの作成を通じて、危険の回避について注意を払い、適切なサービスを提供する責任を負っています。ヘルパー個人だけでなく、事業所の両者が責任を問われる可能性があります。
今回の事例では、G さんに行動障害があることは分かっており、このような事態が起きることも事前に十分に予測できていたというのであれば、ヘルパーの数を増やすとか、人混みを避けるとか、事故を回避する方法があったはずだという判断になることも考えられます。ヘルパーや事業所にとっては厳しいと思われるかもしれませんが、移動支援のようなサービスを行う以上、常につきまとう危険であると思います。そのため、事前に後記のような保険への加入を検討しておくべきでしょう。

福祉の視点から

1 福祉的支援実施の事故発生時における保険の適用

福祉施設の運営に関しての保険で代表的なものとして、「ふくしの保険」が挙げられます。この制度は社会福祉施設(法人)が加入申込者となり、社会福祉施設(法人)または施設利用者を補償対象として全国社会福祉協議会が一括して保険会社と締結する団体契約です。各事業所の運営事業内容により細かく契約内容を設定することが可能です。 また、特にホームヘルプ事業のように施設外でのサービスに強い保険は民間の保険会社がいくつか用意しています。一例として、損保ジャパンのウォームハートなどは、介護事業者向けの賠償責任保険として業務遂行中の事故だけでなく、業務の結果による事故、管理財物の事故などにも幅広く対応しています。

2  リスクマネジメントに焦点を当てた業務マニュアル、個別支援計画の作成

福祉事業者は支援の実施において、想定されうるすべての事故を回避するために必ず対応策を練る必要があります(結果回避義務)。事故の発生や被害の拡大が予見できたのに、何も対策を採らなければ、安全配慮義務を怠ったとして、事業者の安全配慮義違反が問われます。
日常業務より事故報告書・ヒヤリハット・ケース記録等の蓄積と分析及び対応を記録して整理しておくことは、どの事業所でも行われているはずです。それらを用いて、日頃の業務について再確認し、支援者の一人一人がリスクに対し高い意識を持てるような業務マニュアルや組織作りを実施していくことが肝要です。
また、こういったケースの場合、個別支援計画の策定においてもリスクマネジメントの視点を盛り込むことが考えられます。しかしこのとき気をつけたいことは、安全確保を第一としたモデルではなく、リスクを考慮したモデルづくりという視点で計画策定を行うことです。個別支援計画は、本人が望む暮らしを実現するためのものです。リスク回避を念頭に置いて支援者が本人の行動や生活をコントロールするのではなく、本人の身体的・精神的な安定や快適さを保つために、想定されうるリスクをどのように回避するのか考え、本人の特性等を十分に考慮した計画策定を行うことが大切です。

3  障害当事者とヘルパーとの取り決め、約束事

今回の事例における議論点として、ヘルパーや福祉事業所の責任問題のみならず、おばあさんを傷つけてしまったという G さん自身のケアにも焦点を当てる必要があります。
行動障害が表面化した際に安全配慮の観点からご本人を羽交い絞めにして抑えた場合、確かにリスクを回避したことにはなりますが、同時に、ご本人が抱く自尊心を傷つけることになりかねません。ご本人の視点や考えを支援に組み入れていくことは、ご本人の権利擁護へと繋がります。ご本人が望むリスクマネジメントを作ることは、より良い社会参加のために必要不可欠となります。
精神保健福祉の領域を中心に、障害当事者が自らの生活を自らが選んでいけるようにするためのツールとして、「WRAP(元気回復行動プラン)」が用いられています。
この中でも、自らが危機的な状況に陥ってしまった際に、どのように対処すればいいのかをまとめた「クライシスプラン」を用いることで、ご本人の思いに準拠した支援計画を考えることが出来るでしょう。
なかには、重度の知的障害等によりコミュニケーションを上手に図ることが難しく、ご本人が何を考えているのか、支援者が分かりかねるときもあります。しかし、支援を重ねることでご本人がいつどんな時に喜びを感じ、また不安を感じるのか分かるようになります。それはとても貴重な情報源であり、個別支援計画やリスクマネジメントの中に組み込むことで、ご本人の思いに配慮した支援を実施していくことができます。