事例2-28 行動障害があり、すぐにホームから外出しようとするAさん。職員がAさんの腕を掴んだりして、外出を止めているようですが、施設の管理責任者としてどうすべきでしょうか。

私は、グループホームのサービス管理責任者をしております。当施設には、Aさんという52歳の男性で、行動障害をもった方が入居されているのですが、何かあるとホームの外へ出ようとする傾向をお持ちです。外が土砂降りの雨の時や、夜間も外へ出ようとされるので、職員も対応に苦慮しています。施設の近くには、比較的交通量の多い幹線道路もあり、交通事故に遭う心配もあります。

Aさんが外へ出ようとした場合、昼間であれば、職員ができるだけ付き添うようにしています。しかし、夜間に出かけようとするときは、施設の人手が少ないので、どうしても、Aさんの前に立ったり、腕をつかんだりして引きとめてしまう職員がいます。

責任者としては、職員の対応がAさんへの虐待にあたらないか、虐待にあたらないとしてもこれから虐待に発展する芽がそこにあるのではないかが気になっています。何か対応に工夫ができないでしょうか?

 

【事例の意図】

障害者虐待の問題が注目される中で、施設側が支援のあり方に対し判断を迷う場面も増えてきます。利用者が怪我や事故に巻き込まれないよう配慮することが、かえって本人の尊厳を奪う行動制限、虐待につながるのではないかというように、適切な援助の境目を見極めることは容易ではありません。施設としてどのような対応の工夫ができるのか、本事例を通して考えていきます。

 

【弁護士の視点から】

  1. 障害者虐待防止法における「身体的虐待」とは、身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由無く障害者の身体を拘束すること」と定義されています(虐待防止法2条6項1号イ)。
    夜間に外出しようとするAさんの前に立ったり、腕をつかんで引き止める行為は、「身体を拘束する」行為に該当するおそれがあります。
  2. もっとも、正当な理由があれば、身体的虐待に該当しません。
    そこで、正当な理由の解釈が問題となりますが、①切迫性(本人又は家族等の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと)、②非代替性(身体拘束等行動制限を行う以外に代替する方法が無いこと)、③一時性(身体拘束等の行動制限が一時的なものであること)、この3要件を満たした場合にのみ、例外的に「正当な理由」が認められると考えられています。すなわち、身体拘束は、利用者の障害特性を理解した支援の工夫がなされていたにもかかわらず、切迫した事態が生じた時に、身体拘束を行う以外に方法が無い場合、しかもその身体拘束が一時的であるという場合に初めて正当な理由によるものとして許されます。
  3. 確かに、夜の時間帯に、幹線道路が近くにある所で、一人で外出することは、交通事故に巻き込まれる等の生命、身体への危険が生じるかもしれません。
    しかし、「人手不足」や「管理のし易さ」は、身体拘束をする理由にはなりません。この事例において、一律夜間の外出を制限するようなことは、少なくとも②非代替性の要件に該当せず、身体的虐待に該当するおそれがあります。
  4. また、人の身体を拘束することは、人間の基本的権利である行動の自由を制限するもので、人権への重大な制約と言えます。そのため、身体拘束が正当化されるためには、前記で述べたような正当な理由に加えて、行動を制約するための適正な手続きが求められると言えます。
    適正な手続きとして、具体的には、身体拘束を行うための組織的決定手続き、個々人のニーズに応えた行動支援計画の作成、身体拘束に対する本人、家族の同意を求める等が挙げられます。また、やむをえず身体拘束をした場合には、やむをえない理由、拘束の態様、時間、本人の心身の状況などを記録に残し、それが適切であったか評価をするべきです。
  5. 身体的拘束は、拘束される当事者本人の心理的ストレスを増長させ、その結果、行動面での障害を強化させてしまい、より「難しい」人にさせてしまいます。支援者が当事者の日常の行動観察を行い記録をつけることで、行動の要因等を分析し、問題となっている行動を未然に防ぐことができれば、最も望ましいと言えるでしょう。

(弁護士 橋本佳子)

 

【支援者の視点から】

私たちが、職員等から、利用者さんの対応の難しさを訴えられた場合には、まず事実確認から始めます。

まず、①ご本人の状況〔氏名、年齢、心身の状況(外傷がないか、全身状況、栄養状況、体重の増減、認知面・情緒面の状況など)、生活状況(整容、適切な食事、適切な睡眠、行為の制限についてご本人の認識、感情確認、意思表示能力や、コミュニケーションの能力や在り方、表情、態度の確認、環境の確認など)、ご本人への職員の関わりの状況、ご家族の状況など〕について、ご本人目線での評価を聞き取ります。

次に、②職員の状況〔ご本人と関わっている各職員の関わりの状況、心身の疲労感などの状況、ご本人への態度、各職員の職場での状況等〕を、個別で、また、グループで聞き取りをし、アセスメントします。

そして、③ご本人を取り巻く、社会資源の状況(例えば市町村の保健所、生活保護課、デイサービスなどの協力体制など)、家族の状況等、具体的な関わりの状況の確認をします。

このように、ご本人が、援助を求めやすい状況かどうかの確認をしていきます。

さらに、④訴えてきた職員の状況の確認〔何を持ってリスクと感じたか〕を詳しく、聞き取る必要があると思います。

また、⑤虐待だとすれば、それが、どういう種類の虐待だと思われるか。誰が、いつ、どこで、どのように、どうしたかの具体的な事実確認。その頻度、身体の変化があるか、根拠のあるなし等の確認。さらに、外側からの虐待なのか、ご本人の内発的な動機を妨げるものとしての虐待なのか、など、権利擁護の視点から考えて行く必要もあろうかと思います。

私たちは、障害がある方々と比べると、やはり、社会的に力を与えられている場合が多いので、彼らの権利を簡単に踏みにじっていることが、日常でも多いかもしれないということ、支援者同士の共感性から、虐待にあたるかどうかの基準を引き下げがちであることは、意識しておきたいと思います。

コアな職員で以上の確認を速やかにして、虐待の有無を、組織的に判断し、通報が必要であると判断した場合は速やかに通報する。そのうえで、ご本人を取り巻く施設職員、ご家族、市町村の人々、医療、場合によっては司法で、協働して相談しながら、ご本人への対応を、考えて行く必要があると考えます。

以上のように、行動障害があろうとなかろうと、まず、基本的に、ご本人が守られた、安心できる状況にあるかの確認が、優先されましょう。

次に、行動障害自体についての検討をします。ご本人は、外出行為があるということですが、他にも行動障害となっていることがあるのでしょうか。ご本人について、知りたいところです。

夜間であっても、どしゃぶりの雨の中でも、ご本人が外出したいなら、その主体性を尊重して外出を、見守るのが、支援となるのでしょうか。交通量の多い道に飛び出す行為を認めることが正しい支援となるのでしょうか。我々は、安全、安心を保証しながら、ご本人らしい生活を、一緒に、創りあげていきたい。

ご本人はなぜ、外に跳びだしていきたいのでしょうか。私なら、そうした行為をすること自体が、不快になります。職員さんに止められることが、不快なのか、実は、強い関わりを求めているのか。日頃から、ご本人とは信頼関係を築き、日常の中で、リスク時の対応について、よく話し合って、決めていけると良いかもしれません。

(地域活動支援センター 職員)

  【参考リンク】