事例2-26 障害者枠で採用されたAさんが、何らの指導・配慮を受けられないまま、障害特性を理由に雇止めに遭いそうです。支援者はどうすればよいでしょうか?

知的障害のあるAさん(20代・男性)は、2週間の実習を経てL社に就職しました。仕事の内容は、L社所有の娯楽施設の清掃作業。L社はM社(清掃会社)にその娯楽施設の清掃作業を委託しています。
L社とM社との契約には<L社が雇用している社員の作業指導をM社がする>という内容は含まれていませんが、Aさんの仕事内容及び勤務時間は、M社から派遣されている2名の清掃スタッフの勤務に合わせて設定されています(L社の社員の始業時間は8時ですが、AさんはM社のスタッフに合わせて7時からの勤務)。
Aさんは障害特性上、独り言が多いのですが、娯楽施設のお客さんから「うるさい」と、M社へ苦情が入りました。これに対して、M社は「人をかえます」と謝罪したものの、L社はAさんの仕事内容を変更しませんでした。Aさんと一緒に働いているM社のスタッフは、苦情が出ないように、Aさんの作業スケジュールを組み立て直し、指導を続けてくれていましたが、自分の仕事をしつつ、常にAさんの様子も見て指示を出すことに疲れが見え始めました。そこで、Aさんを雇用したL社に対して協力を求めましたが、状況は変わりません。
Aさんの契約更新(1年間)を目の前にして、M社のスタッフは「Aさんをこのまま雇用するなら、私が辞めます。」と訴えました。L社は、M社のスタッフに辞められては困るため、以前お客さんから上がってきた苦情を理由として、Aさんの契約を更新しないことを決めました(無理なことを承知の上「独り言をやめることができるなら契約更新します。」と条件提示してきました)。
このような事態に対し、支援者はどのような対応をすればいいのでしょうか。

【就労支援の視点から】

障害者枠での求人内容として、「清掃」は非常に多く見受けられます。清掃業者に委託していた部分を自社の社員の仕事に変更したり(委託していた清掃業者との契約を辞め、その清掃業者の人を指導員として採用する等)、L社のように指導を委託業者に任せてしまう場合があります。残念ながら、L社のような雇用形態は珍しいことではありません。
本事例で、Aさんの雇用管理をする責任は本来L社が負っていますが、L社は、立場を利用して責任をM社に押し付けることになっています。
Aさんの障害特性(独り言が出てしまい、黙っていられない)が、娯楽施設の清掃には不向きであると判断するならば、雇止めを決定する前に、L社はAさんの能力と適性に合った作業を社内で切り出すべきです。支援者はその必要性を伝え、具体的な作業内容についての提案をする必要があります。支援者がL社に作業内容の提案を行うのには、①AさんはL社の一員であり、L社の社員と共に働くことに意味があることを認識してもらう、②新たに切り出した作業とのさらなるミスマッチングを防ぐ、という2つの目的があります。
それでもL社が上記の努力をしないようであれば、管轄のハローワークへ雇用管理に関する相談をしてみてもいいでしょう。L社と支援者との関係悪化が心配されるところではありますが、L社の障害者雇用に対する考え方が変わらない限り、同じようなことが繰り返される可能性があり、それを避けるためにも、勇気ある対応をしていきましょう。

(就労支援事業担当者)

【弁護士の視点から】

AさんとL社の労働契約は、1年間という期間の定めがあるようですが、期間の定めがある有期雇用であっても、一定の場合には、雇止め(更新拒絶)が違法、無効となることがあります(労働契約法19条)。すなわち、①更新が繰り返されてきた結果、雇止め(更新拒絶)が、期間の定めがない正社員を解雇することと同視されるような場合や、②労働者が期間満了後も契約が更新されることに対する期待を持つことが合理的な場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない限り、雇止めは違法・無効となります。
では、上記①②にあたる場合、障害特性上、独り言が多いAさんに対する雇止めの有効性はどのように判断されるのでしょうか。この点、障害者に対する差別の禁止や合理的配慮の提供義務を盛り込んだ改正障害者雇用促進法等の趣旨からすれば、L社が障害特性に対する配慮を何ら行っていない状況での雇止め(更新拒絶)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとして、違法、無効とされる可能性は高いと言えるでしょう。
その場合、契約が更新されたのと同様の効果を得るには、労働者側から、契約更新の申込みをするか、または、期間満了後遅滞なく契約締結の申込みをすることが必要とされています(これは、使用者の雇止めの意思表示に対する異議でよいとされています)。そこで、相談を受けた場合、とりあえずは、直ちに、雇止めに対する異議を書面で行うべきです(異議を述べておかないと、後になって、次のような法的手続を採りたいという希望が出た場合に、困難が生じます)。
そのうえで、元職復帰を求めるか、金銭解決でよいかどうか、改めてAさんと話し合って、Aさんの意見を確認して下さい。Aさんの意思を確認したうえで、弁護士に相談し、交渉、労働審判、仮処分、本訴等の手続について、アドバイスをもらうとよいでしょう。

(弁護士 中田雅久)