事例2-25 自己破産を経験したAさん。今後、気を付けるべきことはどんなことでしょうか?

Aさん(30代・男性)には、軽度の知的障害がありました。就労移行支援事業所を利用して、1年後に、大手企業の特例子会社に就職しました。
働き始めたAさんは、めきめき力をつけ、1年後には正社員に抜擢されました。ところが、就職後3年目ころから生活が乱れ始めました。クレジットカードを作り、高価なものを買い始めたのです。既に、Aさんは車やバイクを、Aさんの妻は高価な時計やアクセサリーを買っています。ローン生活が始まり、返済におわれるようになりました。
これが勤務先の生活支援員の知るところとなり、支援機関に相談があったので、関係者が集まって対策を検討しました。その結果、生活を立て直すため、弁護士に入ってもらい自己破産の道を選択することになりました。現在は社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を使って金銭の管理をしてもらっており、勤務先には今も継続して雇用されています。
Aさんは、今後、どのようなことに気をつけて生活したらいいでしょうか。

【福祉の視点から】

軽度知的障害のある人は、一見、何の問題もなく、日常の生活に必要なことや日常会話、就労などができるように見えます。しかし実際は、社会生活上の困難を抱えていることがあります。
Aさんの場合も、一見できているようですが、実際は金銭管理が苦手のようです。また、クレジットカードを利用することは理解できますが、その後に代金を支払うことを考えて購入することが苦手なのかもしれません。そして、Aさんの妻にも同様の傾向がみられます。今後も、継続して日常生活自立支援事業を利用して金銭管理を行ってもらうことが考えられます。また、Aさんの知的障害は軽度ということですので、後見や保佐の類型までは至らないとしても、補助制度の利用も視野に入れた幅広い選択を考えていくとよいでしょう。
Aさんの事例から、今後気をつけないといけない事柄は次のようなことが考えられます。まずAさんの勤労意欲を失わないように、Aさんと一緒に金銭の使い道を計画していくことが必要です。たとえば、1週間ごとに決めた金額で生活をすることや、高額な買い物のときは事前に貯金をしてから購入するなどのルールを作ることも1つです。また、再びクレジットカードが作成できるようになる前に、クレジットカードやカードローンなどの仕組みや使い方(購入後に代金の請求が来ることなど)についても学ぶ必要があるでしょう。そして、Aさんの妻についても同様の支援が必要と考えられます。

(就労移行支援事業所 職員)

【弁護士の視点から】

一番気をつけてもらいたいことは、破産後の借金です。
破産をした人は、破産した後(正しくは、免責許可決定確定後)7年間は、原則として再度の破産をすることが許されません(破産法252条1項10号イ)。
そのため、破産後に借金をしてしまうと、返済をしていかなければならなくなります。
本事例では、現在、Aさんのお金は社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で管理されているということですが、Aさんが再び高額な物を購入したり、借金をしたりすれば、もちろんお金を支払っていかなければならなくなります。
Aさんについては、補助制度の利用について検討したほうが良いでしょう。補助制度は、借金をする等ある一定の法律行為について、補助人の事前の同意を得なければならず、補助人の同意が無い場合は、取り消すことができるというものです(民法15条1項、17条1項)。補助制度の利用には、本人の同意が必要になります(同15条2項、17条2項)ので、本人とよく話し合い、理解をしてもらった上で、補助制度を利用してください。
なお、今回の事例では、Aさんの妻もAさんと一緒に借金をしていたという経緯もあるので、Aさんの補助人は、Aさんを援助してくれる第三者(社会福祉士や市民後見人等)が適していると言えます。
また、破産をした人は、いわゆるヤミ金業者に狙われやすい傾向にあります。
一旦ヤミ金でお金を借りてしまうと、非常に高い金利を含めたお金をヤミ金業者に返さなければならなくなり、その返済のお金を調達するために、他のヤミ金業者から借金をする、といったループに陥ってしまいます。
支援者は、Aさんがヤミ金からの勧誘に乗らないよう、日頃から注意を促すことが大切です。

(弁護士 橋本佳子)

【用語解説】

○日常生活自立支援事業とは

日常生活自立支援事業とは、認知症のある高齢の方、知的障害のある方、精神障害のある方等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。窓口は、市町村の社会福祉協議会にあります。
参考:厚生労働省「日常生活自立支援事業」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/