事例2-18 職場の同僚からストーカー扱いをされた知的障害があるAさん。支援者はどう対応すればよいでしょうか?

知的障害があるAさん(40代男性)は、正社員に比べて派遣社員の人数が多い会社に勤めています。最寄駅の改札から会社までの通勤経路は一つしかありません。勤めている人は皆さん同じ道を歩きます。ある時、同じ会社に勤める派遣社員の女性から、「Aさんに改札で待ち伏せされている。つけられている。ストーカー被害にあっている。」との訴えが会社の上司に入りました。その女性は、他の会社に勤務していた際にも、障害のある人にストーカーされたと訴え、訴えられた人は退職になった経緯があるそうです。Aさんが勤めている会社の上司も、女性の訴えを鵜呑みにしている訳ではないようですが、Aさんの勤務時間や出勤の曜日をずらしてはどうかと提案をしてきました。支援者はどのような対応をとったらいいのでしょうか?

【事例の意図】

ストーカーは重大な事態に発展することもあり軽視すべき問題ではありませんが、その危険度や真偽のほどを判断するのは難しく、被害の申告があった以上、会社の立場としては対応しないわけにはいかないでしょう。同じ会社で働く人たちと言っても、管理職、平社員、アルバイト、派遣社員…と様々な立場の人たちがいますから、障害のある人とともに働くことについても100%のコンセンサスを得るのは難しいこともあります。会社の立場も理解しつつ、当事者の権利を守るために支援者は具体的な対策を考える必要があります。

【福祉の視点から】

会社は女性の訴えを真に受けているとは思えませんが、訴えがあったことに対して、何らかの対処をしたという事実が必要なのでしょう。
しかし、会社の提案をそのまま受け入れるだけだと、Aさんがストーカー行為をしていると認めてしまうことにもなりかねません。支援者はAさんに変わって、その事実がないことを、会社と女性に対して証明する必要があります。
他の職場でも同じような訴えをした事実から、女性に被害妄想などの症状がある可能性もあります。単に「そのようなことをする人ではない。」と女性の訴えを否定するだけでは、解決にならないことは明らかです。支援者は、その女性が納得するような方法で、<ストーカー行為はしていない>という事実を証明する必要があります(たとえば、Aさんの了解を得てAさんに同行し、いつ・どこに居たという記録を積み重ねることでストーキングをしていないことの裏付けをとり、その女性の理解を得る等)。

(就労支援センター 職員)

【弁護士の視点から】

労働契約法16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められており、法的には、使用者側が、①解雇に客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であることを証明しない限り、解雇は認められないことになっています。
そうすると、事例上の事実を前提とする限り、Aさんを、解雇することの法的な正当性は認められないと考えられます。
しかし、会社も厄介ごとに巻き込まれるのはいやがりますから、女性とのトラブルが大きくなれば、トラブルの当事者に対し、暗に辞職を促したり、雇い止めをおこなったり、法的な正当性が認められないのに解雇を強行するといったことも起こり得ます。また、こういった辞職勧告等は、立場が弱い、あるいは、強く自己主張できない側に為されることが多く、本事例では女性よりもAさんに為される可能性が高いと言えます。なお、裁判において解雇の無効を主張する場合、元職復帰を求めていくのか、それとも金銭の支払いだけを求めるのかを選択することになりますが、事実上、元職への復帰には困難もあります。
こういった見通しを説明した上で、今回のトラブルに対するAさんの想い(ストーカーじゃないのだからそういう提案にのりたくない、という気持ちも当然あるはずです)を尊重しつつ、会社の提案に乗るか否かを考えていくことになると思います。

(弁護士 平林剛)