2015.12.16定例会 軽微な犯罪を繰り返してしまうJさん

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事例概要

21歳の男性Jさんは、17歳以降から現在に至るまで、刑事施設を出てすぐに比較的軽微な犯罪をして逮捕される、ということを繰り返してきました。本件に至る前も、無銭飲食で捕まり、実刑1年6か月、執行猶予2年保護観察付きの判決を受け、ホームレス支援を行っているNPO法人の施設に入所するも、3日で施設を飛び出し、再び無銭飲食をしたというのが、今回の事件です。
通院歴は、少年時代に、試験観察に付され取消され少年院送致になった期間に、2日間だけ、都内の心療内科に通ったのみで、そこでは「広汎性発達障害」の診断を受けています。それ以外の通院歴はありません。というのも、17歳以降、Jさんが少年院等の刑事施設外で生活した期間は、すべて足しても数か月程度しかないからです。
Jさん自身は、「発達障害の影響で犯罪を繰り返してしまう。何か不安感や寂しさを感じると家出したくなってしまい、家出をするとどうすることもできず、犯罪をしてしまう」と自己分析しており、入院ないし入所して治療を受けることを強く望んでいます。
また、今回の事件で初めて、「自分はゲイである。今までそれを隠してきたことも、不安感や寂しさを感じる原因になっていた」と語りました。
なお、頼れる親族・知人はいません。

◎相談を依頼した弁護士の考え
法律上は執行猶予判決が可能なため、執行猶予を目指す公判弁護をしたいと思っておりますが、ホームレス支援施設・生活保護の同行・精神科への通院程度の社会環境を整えても、実刑判決を免れることは到底できそうにありません。病院or施設に入所させた方が更生できる、ということが示せて、辛うじて執行猶予の可能性が出てくるのではないかと考えておりますが、適切な受け入れ先が思い当たらず、質問・情報提供のお願いをした次第です。

参加者からのご意見

受け入れ先について

◯更生保護施設・指定更生保護施設(福祉専門職から)
保護観察所の発行する「更生緊急保護カード」を取得して,更生保護施設を利用することが考えられます。Jさんの場合,発達障害や性の問題があるので,社会福祉士が常駐する「指定更生保護施設」が望ましいのですが,利用施設について希望や指定をすることはできません。しかし,検察庁の社会福祉士と綿密に打ち合わせをすることで,Jさんにより適した保護施設が決定される場合があります。また,検察庁の社会福祉士の紹介で医療機関を受診できれば,療育手帳を取得することも可能です。
更生保護施設の利用は就労することが前提ですし,あくまで短期的なものですが,次のプランを立てるまでの猶予期間を得るという意味で有効な手段だと思います。

◯宿泊型自立訓練(障害者支援施設関係者から)
「宿泊型自立訓練」とは2年間を上限に,日中は入所施設や病院,学校などで生活している人に対し,夜間の居住の場を提供して,地域生活に向けて訓練を行うものです。Jさんは手帳を取得していないこと,現時点で日中の活動場所がないという点で利用は難しいかも知れませんが,通所施設が確保できれば生活を立て直すための選択肢の一つにはなりうると思います。

更生の意思

Jさん自身,自分の発達障害については「困ったな」という感覚があり,広汎性発達障害という診断を受けているので,治療を受けたいという気持ちは持っています。同時に就労の意思もありますが,働いた経験がないので「働く」ということについてはイメージしか持っていません。まずは治療を優先し,すぐに就労は難しいのではないかという意見もありました。
また,今回の事件も,判決確定前の拘置所出所直後の行為であったため「罪の意識が希薄であり,また犯罪を繰り返すのではないか。」という参加者からの意見もありました。

発達障害だから無銭飲食?

「広汎性発達障害が無銭飲食を引き起こしたとは,類型的には考えにくい。」「障害を逃げ道にしているのではないか。」という弁護士からの指摘がありました。
自分の行為を「広汎性発達障害」の症状に当てはめているような言動がJさんには見られるのではないか,また,わずか2日間の通院で「広汎性発達障害」の診断がなされていることから,診断が妥当なものなのか疑わしく,逆に,それ以外の重大な精神疾患が見過ごされている可能性もあるのではないかとの意見も出ました。
他方,「診断名にこだわる必要はない。犯罪を繰り返してしまうこと自体,すでに『生きづらさ』を抱えており,支援が必要である。」という意見もありました。
ある参加者から,次のようなお話がありました。
「精神疾患と関連性が強いとされている性犯罪であっても『犯罪は犯罪』なのです。性犯罪は病気ではなくて『犯罪』であることを忘れてはなりません。当事者が自分の行為を『犯罪』と認識しなければ更生は不可能です。そのために当事者が自分と向き合って自分の行為を追及するための環境,当事者へのサポートが必要とされているのです。」
累犯障害者問題に取り組む若手弁護士からは「障害の程度によっては内省をすること自体難しく『形だけの反省を繰り返す障害者』もいます。このような当事者にはどのように対処したらいいでしょうか。」という質問もありました。

当事者意思が中心となる支援を

ほかに,参加者から以下のような意見が出されました。

  • Jさんは中学時代から不登校の傾向があり,高校も中退しています。「いじめにあっていた。」という話もしており,性的マイノリティであることを秘していた不安感や寂しさへの配慮を前提とした支援が必要となると思います。
  • 生育歴を理解した上で本人が望むリソースと提供していく,という当事者主体の支援が重要なのですが,日本ではまだ「行政が決定した枠組みの中で本人がどこまで自助努力できるか」という行政主導型支援が主流であると言わざるを得ません。

●勉強会講師の大西さんから,このケースの参考になりそうな海外の例の紹介がありました。

  • ハームリダクション(harm:危害,reduction:削減,縮小)という考え方で,例えば,薬物依存症患者に安全な注射針や注射する場所を提供するような活動があります。危険を最低限にし,安全確保することが目的で,薬物を許容しているわけではありません。「人の教育・更生は困難」という考え方がベースとなり,コミュニケーションの回路を断たないこと,依存症患者のコミュニティを確保することなどが重視されます。
  • コンシューマーチョイス(consumer:サービスの利用者,choice:選択),ハウジングファースト(housing first)という理念も紹介されました。パーソナルサポート(personal support)に通じる,当事者の意思決定を重視する考え方です。