2015.09.24 ハートカフェ@渋谷

【事例概要】

 軽度知的障害(愛の手帳4度/IQ60)・自閉症の男性Aさん(20代)は,都内某区で両親と3人で暮らしています。近所の作業所(就労継続支援B型)に1人で歩いて通っています。
ある朝,作業所への通所途中,Aさんは登校中の小学生男子児童数名に「気持ち悪い」などとからかわれました。Aさんは,かっとなって「うるさい!」と大声を上げ,男子児童の1人とつかみ合いになりました。その際,児童が転んで手に怪我をしました(全治3日の擦り傷)。
その様子を目撃していた通行人が110番通報したため,パトカー数台が駆けつけ,大勢の警察官がAさんを取り囲み,厳しい口調で問い詰めました。Aさんはパニックになって警察官の1人を突き飛ばしてしまったため,傷害罪・公務執行妨害罪で現行犯逮捕されました。なお,Aさんには前科・前歴はありません。
男子児童の通う小学校の校長先生は,「保護者の皆さんから不安の声が出ています。障害者だからといって,小学生に怪我をさせるなど許されることではありません。刑務所か病院か施設に閉じ込めておいてほしいと思います。」と話しています。
Aさんが通っていた作業所の施設長は,「通所中のトラブルは自己責任です。私たちの作業所と小学校は同じ地区にあり,地域の目もあるので,今後,当作業所の利用はお断りいたします。」と話しています。
Aさんの担当になった国選弁護人(弁護士)は,「起訴されるのを避けるため,Aさんを遠くの入所施設かグループホームに入れてはどうでしょうか。そうすれば,被害者や地域住民の理解も得られると思います。」と両親に提案をしました。
Aさんの両親は,「Aは私たちが責任を持って監督します。施設に預けることは絶対にしません。一人で外出させることは危険だと分かったので,今後,Aが外出するときは,常に私たちのどちらかが付き添うことにします。」と話しています。
Aさん自身は,「男の子が先に手を出してきました。僕は悪くありません。早くここ(警察署)から出たいです。作業所にもまた通いたいです。1人で自由に歩きたいです。」と話しています。

問1 関係者のそれぞれの発言について,あなたはどう思いますか?

1.男子児童の通う校長先生の発言について

  • もっと別のやり方があるはずではないでしょうか。子どもたちへの教育や地域・保護者の理解を深める方向での対処の仕方もあるはずだと思います。

2.Aさんが通っていた作業所の施設長の発言について

  • 施設長はAさんのことを良く知っているはずです。通所中のことだから自己責任と言って切り捨てるのではなく、もっとしっかりとして欲しいと思います。
  • Aさんのことを良く知る施設長にこそ、地域の人との仲介役を担って欲しいと思います。
  • 施設長の発言の背景には、職員さん、他の利用者さん、その保護者さんなどの多くの方の意向があるのかも知れません。事業者としての責任を追及されたらどうしようという不安があるのも分かります。しかし、今回の事件で利用拒否まで行うことはやりすぎだと思います。

3.Aさんの担当になった国選弁護人について

  • 障害に対する理解のある方なのか疑問に思います。
  • 福祉サービスの利用目的を誤解しているのではないかという印象を受けます。ご本人の自立のために施設があるということを分かっていないように思われます。
  • 身体拘束を受けると検察官が処分を出すまでに最大23日しか時間的猶予がありません。検察官を説得するため取り敢えずという姿勢は分からないでもありません。

4.Aさんの両親について

  • 常に付き添うのは現実問題として難しいと思います。違う方法で本人を向き合ってはどうかと思います。
  • 自分達で抱え込むのではなく、もっと周りを頼っても良いのではないかと思います。

5.Aさん自身について

  • 発言にはAさんの気持ちが端的に表れていると思います。
    ただ、からかわれたとしても手を出してはいけないと思います。事件を振り返ってもらって、適切な行動を学ぶ機会に繋げて行ければと思います。

問2 誰が,何をすればよいでしょうか?

  • 関係者がもっとAさんの気持ちを尊重して行動すれば良いと思います。
  • 施設長は弁護士に対して本来のAさんの姿を伝えるべきだと思います。
  • 両親は行政の福祉課の職員、作業所の支援員、民政委員、育成会、鑑別所の地域相談などに問題を相談してみてはどうかと思います。
  • 弁護人は親だけではなく施設など他の関係者とも積極的に会って、どうアプローチをすれば良いのかを考えてみてはどうかと思います。