2015.06.17定例会 なぜ中学生の体を触ってしまうのか~思いをうかがう際に必要なこと~

事例概要

知的障害のあるBさん(愛の手帳4度,男性,20代)は,勤務先への通勤に電車と会社のマイクロバスを利用しています。Bさんは,駅で降りてマイクロバスの停留所へ向かうまでの間,登校中の男子中学生に対して背後から股間を鷲掴みにする,女子中学生に対して背後から髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐといった行為に繰り返し及んでおり,被害を受けている中学生がいるのを地域の人が目撃しています。

中学生たちはBさんの行為を面白がっている様子で,現段階では警察に通報されるなどのトラブルには発展していないのですが,本当にこのまま対策をとる必要はないのでしょうか。

事例の意図

知的障害者の行動をことさらに事件化せず,地域で見守る社会は理想的ではありますが,それが本当の障害に対する理解である場合ばかりではありません。問題としてとらえられていないことで支援者が把握できず,問題化して初めて対策に追われることになるのは避けたいところです。また,なぜそのような行動を取ってしまうのか,その理由を探すためにアセスメントをして解決策を多角的に解明することも重要です。地域,そして支援者が障害を正しく理解して,今後のトラブルを防ぐことも,必要な視点となります。

検討結果

検討会で議論をしたところ,様々な意見が出されました。代表的なものをご紹介いたします。

-甲さん(福祉職)の意見-

今回のケースでは、Bさんがどのような思いで行為に及んでいるのかを汲み取っていくこと(アセスメント)が重要になります。その際、Bさんから話をうかがっていく上で求められる視点の一例を、以下にまとめました。

視点1「この行為はいつからか」
視点2「電車内では同様の行為はないのか」
視点3「対象は特定の個人なのか」
視点4「行為に及ぶ際、発している言葉はあるか。また表情はどうか」
視点5「親はこの事実を知っているのか」
視点6「普段、男の子や女の子とどう接しているのか」

Bさんの行動がつい最近始まったことなのか、それとも学生時代からあったのかを知ることは基本的な視点となります。それにより、仕事のストレスがきっかけとなっているのか、日常の遊びの範疇で行っているのか等、新たな着眼点を増やしていくことに繋がります。遊びで行っているのだとすれば、「(行為によって)何か楽しいことがあるの?」と聞いていくことで、Bさんの考える世界に一歩ずつ近づいていくことが出来るでしょう。

また、学生時代、周りの人とどのように接していたのか、仕事先での勤務態度はどうかといった、これまでの生活をどのように過ごし方をうかがい、同様の行為があったのか把握していくことも大切です。Bさんから話を聞く他にも、ご家族や就労先、関わりのある福祉施設からも話を聞き、本人と、本人を取り巻く関係者たちを広く理解することで、今後どのような働きかけが必要なのかが見えてきます。

注意すべきは、支援者がBさんの行為を端から問題であると決めつけないようにすることです。支援者の価値観により、Bさんの問題を正そうとその行為にのみ着目し、その背景にある生活状況に気付けなくなってしまうこともあります。支援者の常識を押し付けるのではなく、Bさんの思いをうかがったうえで、何をすべきかを一緒に考えていくことが支援者には求められます。

-乙さん(弁護士)の意見-

そもそも、Bさんの行為を問題行為として対応すべきか考える必要があります。

一方で、問題にはならなくても生きにくさへの支援は必要となってくるでしょう。Bさん自身の「今」と「将来」を考える必要があるかと思われます。

また、被害にあっている中学生を放置するようなことはせずに、受傷ケアを講じることも大切です。被害者が抱いてしまう誤った障害者像を払拭し、障害の正しい理解を伝えることで、Bさんをはじめとした障害のある方も生きやすい社会をつくっていく手立てを講じられるでしょう。